地理はなぜ必要なのか? -地理を学ぶ意義-

地理はなぜ必要とされるのでしょうか?

ここでは、日常生活や現代社会の状況をふまえて地理を学ぶ意義について考えていきます

地理と言えば?

「地理」と言えば、みなさんどんなイメージをお持ちでしょうか?

普段考えもしないことかも知れませんが、多くの人にとっての地理とはどんなものか、ここに挙げてみました。

  • 中学高校で勉強したが、大人になってからはあまり触れることはない

大半の人は学校で勉強はしていると思いますが、その後は遠ざかってしまう人がほとんどだと思います。

  • たまに知らない場所に行くときに地図を見る程度

旅行でも仕事でも、知らない場所はどこに行けばいいか確認するために地図を見ると思いますが、そこから深くは考えないと思います。

  • ナビで見る程度

移動する時でも車を運転するときはカーナビ、徒歩や電車で移動する場合はスマホに入っているアプリなどを使うと思いますが、これも目的地に着けば役割は終わりだと思います。

  • そもそも地図音痴なので地図をあまり見ない

その昔「話を聴かない男、地図を読めない女」という本が流行りましたが、そもそも地図が読めないので地理が苦手という人もいると思います。

しかし、実は身近なところに地理はつながっているのです。

こんな経験ありませんか? -身近なケースから考える-

1つ具体的なシチュエーションを考えてみましょう。

ネット上を検索していて人気の店を見つけました。例えばおいしいと評判のレストランを見つけ、この店にランチを食べに行きたいと思いました。その場合どうしますか?

その場所に行くとなると、誰もがその場所がどこにあるか調べると思います。たいてい店のサイトには案内図が載ってますので、そこで場所がわかります。これを見てどう判断するかです。

これが地理の知識がある場合、このときの地理の知識というのは「地理感覚」、すなわち地名を聞いてどの県の東の方とかだいたいどの辺りといった、おおよその場所がわかる知識を指します。この知識がある人は、地図を見ただけでその店がだいたいどの辺にあるかがわかります。自宅からの距離もわかるので、例えば40分ほどで行けそうであれば週末にでも行ってみるか、といった判断ができます。

これが逆に知識がない場合、まったく場所の検討がつかないのでどのタイミングで行けばいいか判断ができないわけです。また、人によっては場所がわからなくても今はナビがあるのでナビにお任せという人もいますが、例えば乗換案内で行き先の駅名が間違って違う場所へ行ってしまったりしても途中で間違いに気づかないというパターンもあります。このように地理の知識がないと苦労します。

このように地理の知識があるかないかで日常生活も変わってくる、ということになります。

日常生活のまわりに地理はあふれている

地理は自分とはまったく関係ないと思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか?

実は日常の生活の中で地理的知識を要求される場面は多くあります

  • 移動する

仕事でもプライベートでも移動するときに目的地を確認し、現在地から目的地に行くまでどのようなルートや交通機関を利用するかを考える際に地理的知識が要求されます。現在は乗換検索やナビなどが充実いるので時刻表や地図とにらめっこする必要性は減りましたが、それでも地理の知識があるのとないのとでは違います。

  • 住む場所を探す

新しく住まいを探すときにその場所が通勤通学や買物に便利な場所か、治安が良いか、公園や遊べる場所が近くにあるかなど、その人の生活スタイルに合わせていくつかチェックするポイントがあります。これらをチェックするにあたり地理の知識があると場所のアタリも付けやすくなり判断がしやすくなります。

  • 旅行する

知らないところに旅行するときに、旅行先の名所、名物、風土、歴史などの情報があると理解が深まり、旅行を楽しむことができます。それらの情報を理解するために地理の知識が役に立ちます。

  • 災害に備える

地震、水害、津波などの災害に備えるにあたり、地理の知識が欠かせません。各自治体から災害の危険のある場所を地図上で示したハザードマップが配布されていますが、それを読み込むのに地理的知識が要求されます。また斜面、谷間、川縁など地形と災害に関する知識があれば、日常的に危険な場所を察知することができるようになります。

このように見ていくと、実は地理は普段の日常生活の周囲でも必要とされる場面が多々あり、非常に身近な存在であることが分かると思います。
逆に言うと、地理は身の回りのことを理解するのに役に立つ一分野とも言えそうです。

地理を取り巻く現状

現代社会では地理はどのようにとらえられているのでしょうか?

さらにここからは、もう少し大きな視点で地理を取り巻く状況を見ていきます。

2022年度から高校で地理が必修化されました。なぜ必修化されたかというと、理由は大きく2点挙げられます。

  • 変化の激しい現代社会の理解

現代社会は戦争やパンデミックなどの発生、それに伴う経済状況の変化などなどいろいろと変化が激しく、また環境問題などさまざまな問題が噴出している状況です。一方でITや通信技術の発達で世界中の情報がリアルタイムで入手できるようになりましたが、逆に情報の洪水と呼ばれるような情報が巷に溢れている状況です。

これからこの現代社会を生きて行くに当たって、どこで何がどのような原因で起こっていているのか、などを知るための基礎知識として地理の知識が必要とされています。

  • 持続可能な社会に向けた取り組み

持続可能な社会に向けて取り組むにあたって、世界をとりまく現状やそれらがもつ課題を知り、方策を検討するための基礎知識として地理の知識が必要とされています。

これらをまとめると、地理は現代社会を生きていくために必要な知識である、ということが言えると思います。

地理と他分野との関わり

地理は単独で成り立つものでしょうか?

ここでは地理と他の分野との関わりについて見てきます。

地理は単独の分野ではなく、実は他の分野とも非常に関わりが深いという事実があります。

  • 物流

ある場所からある場所へどうやって効率よく荷物を運べるか、またどこの倉庫に格納するか、という物流ルートの整備に地理が使われています。

  • 交通

鉄道、バス、船舶、航空といった公共交通について、それらのルートや停車駅、バス停などを決めるときに地理が使われています。また鉄道の混雑対策、道路の渋滞対策にも地理が使われています。

  • インフラ、通信

電気、上下水道、ガス、電話、携帯電話などの通信の分野において、送電線、水道管、ガス管、通信ケーブル、基地局などの整備に地理が使われています。

  • 行政

行政で行う都市計画やまちづくりの計画内容を地図に落とし込むために地理が使われています。

住民サービスでは地域区分や出張所の配置などに地理が使われています。また警察や消防の管轄設定や目的の場所の特定に地理が使われています。

  • 観光、レジャー

地域の観光計画や観光地整備、観光地に至る交通機関の整備などに地理が使われます。

  • 土木、建築

鉄道、道路、橋、トンネル、港湾、空港などの整備に地理が使われます。また土地を整備ししたりビルや家などの建築物を建てたりするときの場所を地図に落とし込むために地理が使われます。

  • 農林水産業

農地、山林、漁場を区切ったり整備したりする時に地理が使われます。

  • 小売、サービス

新たな場所に店舗や営業拠点を設ける場合、既存店や競合店の出店状況、顧客の分布等を加味して「商圏」と呼ばれる区域に区切って分析するために地理が使われます。

  • 製造業

工場を作るときに土地と労働力、材料と製品の運送、水や電気などの資源の調達状況を検討するために地理が使われます。

  • メディア、出版

テレビ局、新聞社などで使う放送区域や配達区域、取材区域を決めるときに地理が使われます。また視聴者、購読者の人口分布を分析するためにも地理が使われます。

  • 教育

主に公立の学校ですが、小中高校の配置や統廃合、校区の設定に、学校に通う年代の人口分布を分析するために地理が使われます。

  • 医療、福祉

医療福祉施設や医療圏などの設定整備に人口分布を分析するために地理が使われます。

新型コロナの感染者状況の把握分析、予防策の検討策定にも地理が使われました。

  • 軍事

日本であればシーレーンといった有事の防衛計画の立案、竹島、尖閣諸島といった国境地帯の警備などに地理が使われます。

  • 気象

天気予報を見ると天気図やアメダスなどが出てきますが、天気や台風の進路などの気象予測を立てたり、雨や雪の状況、地震が起こったときの各地の震度を把握したりするときに地理が使われます。

  • 防災

地震、洪水、地滑り、津波、高潮、火山の噴火などの災害に対してハザードマップ、避難場所などの災害対策を立てるときに地理が使われます。

また実際に災害が起こったときの救助や復旧などにも地理が使われます。

ここまで見てきておわかりになるかと思いますが、ほぼわれわれの社会活動のありとあらゆる範囲にわたって地理が関わっているという事実があります。

地理学と哲学は諸科学の母」という言葉があります。

学問の世界で地理学および哲学という学問から世の中のいろんな学問が派生して生まれていったという経緯を表した言葉ですが、学問にかかわらず社会活動の分野にも当てはまる言葉かと思います。

まとめ

ここでは、日常生活との関わり、現代社会における必要性、他分野との関わりの3つの方向性から地理を学ぶ意義について見てきました。

こうしてみてくると、地理は学校で勉強する学問という枠に留まらず、現代社会を生きていく上で必要である知識であることがおわかりいただけたかと思います。地理を学ぶことが現代社会を知ることにつながる、それが地理を学ぶ意義と言えるのではないでしょうか。