市と町と村は何が違うのか? -市町村制度の成立経緯と違い-
日本には2014年(平成26年)現在で1,718の市町村があります。
自治体には大きく市と町と村の3つの区分があり、これ以外にも区を含めて市区町村と呼ばれることもあります。また市には政令指定都市や中核市などの制度があります。これらは何が違うのでしょうか?
ここでは現在の市町村の制度の成立の経緯と市町村の違い、および政令指定都市や中核市の違いについて見ていきます。
目次
市町村の制度の成立
現在の市町村の制度はどのような経緯で成立したのでしょうか?
地方自治法の成立
現在の市町村は1947年(昭和22年)に施行された地方自治法によるものです。地方自治法は1946年(昭和21年)に公布された日本国憲法第92条に基づいて制定されました。
地方自治法により地方公共団体の区分や組織運営に関わる事項が定められました。
従来の市町村からの移行
地方自治法が制定される以前の市町村の根拠となる法律は多岐にわたりました。
多くの市町村は1888年(明治21年)に制定された市制・町村制でした。これ以外に北海道は「北海道一級町村制」「北海道二級町村制」、
戦前の市町村については次のページをご覧ください。
地方自治法はこれらの法律に代わるもので、これまでの市町村の制度を継承しつつ全国の市町村がひとつの法律を根拠とする組織として統一されました。これにより、北海道は一級町村と二級町村に分かれていた区別がなくなり、東京都の区は他の市町村と同格の基礎自治体として位置付けられました。
従来の市町村との違い
市町村はそれぞれ首長(市町村長)や議会(市町村議会)を置き、独自の財源を置き、住民サービスを提供する独立した最小単位の自治体であり、住民と直接の関わりの深い身近な存在となっています。
地方自治法の施行に先立つ1946年(昭和21年)には市制・町村制が改正されており、従来の市町村よりも自治体の権限がより強化されました。従来の首長は議会の選挙によるものでした。地方自治法では市町村長は住民の直接選挙によって選ばれるようになりました。首長や議会議員選挙の選挙権および被選挙権による性別制限が撤廃され、男女の区別なく選挙に参加できるようになりました。議会の権限が強化される一方で首長には議会の解散権が付与され、それぞれが独立した存在として相互に牽制、監視する存在に位置付けられました。
これらは地方自治法にも引き継がれています。
市町村の違い
それでは市町村の間にはどのような違いがあるのでしょうか?
市町村の成立要件
基本的に市町村は地方自治法のもとでは基礎自治体として同格の組織として扱われます。
市制要件としては、地方自治法にて人口5万人以上を有すること、連続した市街地の戸数が全体の戸数の6割以上あること、商工業に従事する者の世帯人口が全人口の6割以上であること、などが明記されています。ただし政策的に市町村合併が促進された時期には別途法律が制定され、人口要件が3万人以上に引き下げられることもありました。また都道府県によっては条例で別の要件が設けられているところもあります。
町制要件については、地方自治法には記載はなく都道府県の条例によって定めることとされています。そのため都道府県ごとに町制要件が異なり、人口要件も都道府県によって3千人のところから1万5千人のところまでと大きく幅があります。また多くの都道府県では市と同様の連続した市街地や商工業者の従事者などを要件として定めています。
ちなみに、村制の要件はありません。
なお、これらは町村が市や町に移行する際の要件であり、存続要件ではありません。そのため、例えば人口5万人を超して市制を施行した自治体が人口減少により5万人を割った場合であっても町へ移行する必要はなく、市のまま存続することができます。
市町村の違い
見た目上の違いとして、町村は郡に属しますが市は属しません。これらは明治時代に自治制度のひとつとして府県と町村の間に存在した郡制が名称として残っているものであり、実態としてはほとんど機能していません。
郡については次のページをご覧ください。
制度上の違いとしては管掌する事務の範囲があります。市は人口が多いため行政組織も大きく事務の管掌範囲も広くなっていますが、人口が少ない町村は行政組織も小さいため、広域的な事務については都道府県が行うことになっています。
例として生活保護に関わる業務を採り上げます。市は福祉事務所を設置し生活保護法に基づく事務を行うこととなっているため、すべての市に福祉事務所が設置されています。一方で町村は福祉事務所の設置は必須とされていないため、福祉事務所を設置していない町村の生活保護法に基づく事務は都道府県が行います。
特別区
東京の特別区は位置付けとしては他の市町村と同格の基礎自治体ですが、他の市町村とは一部異なる性格を持つ特別地方公共団体と位置付けられています。市町村が行う業務のうち、大都市における行政の一体性や統一性を確保する観点から特別区間の連絡調整に関する業務や都が一体的に行う必要があると認められた事務は都が行います。都が行う業務の例としては、上下水道や消防、都市計画などが挙げられます。また財政についても大都市部における財源の均衡化を図るため都税を一定の割合で各区に分配交付されます。
なお、首長である区長について、現在は公選となっていますが、1952年(昭和27年)から1975年(昭和50年)までの間は区議会が都知事の同意を得て選任する区長選任制が採られ、特別区の権限は制限されていました。
政令指定都市と中核市
市には政令指定都市や中核市などいくつかの制度があります。それらと一般の市とは何が違うのでしょうか?
政令指定都市制度
政令指定都市は市の中でも大都市に対して特例を設ける制度です。
起源は1889年(明治22年)の市制施行時に東京・京都・大阪の三大都市に施行された三市特例にさかのぼります。区制が敷かれ市の配下に区が設置されるなど一般の市にはない制度がありましたが、一方で当初は市長について府知事と兼任とされるなど一部の権限が制限されました(その後1898年に撤廃され一般の市都同様に市長が置かれる)。その後名古屋、横浜、神戸にも区制が敷かれましたが、1943年(昭和18年)の東京都制によって東京が外れ、それ以外の5市が残りました。
戦後になって戦前の制度を継承して地方自治法によって特別市の制度が設定されました。この制度は人口50万人以上の要件を満たす市を特別市とし、府県から独立して府県の事務も取扱う自治体として位置付けられました。すると独立によって権限を奪われてしまう特別市を持つ府県からの猛反発が起こりました。
そこで1956年(昭和31年)に地方自治法を改正して特別市の制度を縮小し、府県に所属する形態は変わらず広域で行う事務は府県が行い、一部の事務のみ市に移譲する政令指定都市の制度が定められました。これにより戦前から続く5市が政令指定都市に移行しました。
政令指定都市の要件は人口50万人以上で、政令で指定された市とされています。
中核市制度
中核市は地方自治法の改正により1996年(平成8年)から施行された制度です。政令指定都市ほど規模は大きくないものの準じた規模を持つ市に対して、都道府県の事務の一部を移譲する制度です。中核市の要件は人口20万人以上で、制令で指定された市とされています。
なお、中核市と同時に施行された制度として特例市と呼ばれる制度がありました。特例市も中核市に準じた規模の市に対して都道府県の事務の一部を移譲する制度でした。当時は中核市の要件は人口30万人以上、特例市の要件は人口20万人以上とされました。
その後特例市の制度は廃止され、中核市制度に統合されました。廃止された時点で特例市だった市は中核市に移行するためには改めて手続が必要となるため、中核市に移行しない特例市は施行時特例市として残されました。
政令指定都市や中核市と一般の市との違い
政令指定都市とそれ以外の市との大きな違いは、区が設置されるかどうかの違いが挙げられます。政令指定都市には区が置かれ(特別区特別するため政令区と呼ばれます)、行政組織上は市の下部組織となります。区には市の出先機関として区役所が置かれ、管轄区域が定められます。
政令指定都市や中核市と一般の市の違いは行政事務の範囲にあります。一般の市では都道府県が行う行政事務の一部を政令指定都市や中核市では市が行います。つまり、市の業務の範囲は一般の市よりも中核市の方が、中核市よりも政令指定都市の方が広く、裁量が大きくなります。特に政令指定都市は都道府県に準じた権限が行使できるため、都道府県を経ずに独自の政策を行うことが可能となります。
まとめ
ここでは現在の市町村の制度の成立の経緯と市町村の違い、および政令指定都市や中核市の違いについて見てきました。
現在の市町村は戦前の市制・町村制などの制度を継承しつつ、戦後施行された地方自治法によって定められた基礎自治体です。市と町の移行要件は人口などで決められていますが、存続要件はありません。市と町と村の大きな違いは管掌する行政事務の範囲になります。市町村以外の基礎自治体には特別市があります。市の中には政令指定都市や中核市の制度がありますが、同様に人口などの要件が決められ、一般の市との間には管掌する行政事務の範囲に違いがあります。
市町村制度の成立経緯や違いについて少しは明らかになったのではないでしょうか?
参考・ソース
参考文献
- 齊藤忠光 『地図とデータでみる都道府県と市町村の成り立ち』 平凡社、2020年
(https://www.heibonsha.co.jp/book/b498585.html) - 総務省 「市と町村の主な相違点」
(https://www.soumu.go.jp/main_content/000451014.pdf)