都市雇用圏ってどんなもの? -都市雇用圏の概要-
都市について説明する場合、都道府県や市町村などとは別の枠組みとして「都市圏」という用語が使われることがあります。具体的には、頭に地名をつけて「東京都市圏」「札幌都市圏」などと呼ばれます。
都市圏として一般的に採り上げられることが多いのは「都市雇用圏」と呼ばれるものです。
この「都市雇用圏」とはどのようなものなのでしょうか?
ここでは都市雇用圏の概要について見ていきます。
目次
なお、都市雇用圏以外の都市圏の定義については次のページをご覧ください。
都市雇用圏を含む都市圏の概要については次のページをご覧ください。
都市雇用圏とは
都市雇用圏はどのような経緯で考案されたのでしょうか?
都市雇用圏(Urban Employment Area、UEA)は都市経済学において標準的な都市圏の定義とされているほか、一般的に都市圏として採り上げられることも多くなっています。
都市雇用圏が考案された経緯と背景
都市雇用圏は都市経済学者の
これまでの都市圏の定義では中心都市が単一でした。広大な面積を持つ米国と異なり、日本では距離が近く複数の都市が連担している都市(コナーベーション)が多く、それらは連担した都市が相互に影響を及ぼしながら都市圏として成立しているという特徴がありました。従来の都市圏ではそれらの都市圏をうまくとらえることができないという欠点がありました。
都市雇用圏は、都市圏の多様性や複雑性を反映するために考案されました。都市圏は、中心都市だけでなく、その周辺地域との社会的・経済的な関係によって形成されています。都市雇用圏の定義は、この関係を通勤率という指標でとらえることで、都市圏の実態に近い区分を可能にしました。
都市雇用圏の目的
都市雇用圏の定義は、都市圏の人口や経済の動向を分析するために有用です。都市雇用圏は、都市圏の中心部と郊外部の関係を明確にすることで、都市圏の発展段階や変化を把握することができます。例えば、人口減少局面においては、都心の再開発やジェントリフィケーションによって、都心人口が増加する「再都市化」が起こることがあります。
都市雇用圏の定義は、都市圏の問題や課題に対応するためにも役立ちます。都市雇用圏は、基準が明確であることが長所とされており、都市計画や交通政策などの策定において、適切な対象地域や協力体制を決める際に参考になります。
都市雇用圏で使用する指標
都市雇用圏を定義するためにどのような指標を使用しているのでしょうか?
前項の目的を満たすにあたって、都市雇用圏を定義するために次の3つの指標を使用しています。
- DID人口
- 従業常住比
- 通勤率
具体的に3つの指標について個別に見ていきます。
DID人口
DID(Densely Inhabited District、人口集中地区)とは、人口密度の高い地域です。国勢調査で設定される統計上の地域で、市町村の区域内で人口密度が1km2あたり4,000人以上の基本単位区と呼ばれる区域(町丁、大字など)のお互いに隣接した人口が5,000人以上となる地域に設定されます。
DIDが設定されている地域は人口が集積し、一般的に都市部や市街地と呼ばれている地域となります。
DID人口は都市の規模を示す指標とされることが多く、都市雇用圏で中心を定義する際の指標として使用されています。
従業常住比(従常比)
従業常住比とは、市町村で従業している人口と居住している人口との比率です。特定の市町村で従業する従業者数を同じ市町村に居住する従業者数で割った割合を指します。
一般的には、企業など事業所が多く周囲のベッドタウンから従業員を集める市町村は従業常住比が大きくなり、逆に他の市町村に従業員を提供するベッドタウンである市町村は従業常住比が低くなります。
都市雇用圏では、周辺から雇用を集める地域である中心を定義する際の指標として従業常住比を使用します。
通勤率
通勤率とは、市町村内の従業者における市町村間の通勤者の割合です。特定の市町村内の全従業者に占める通勤元となる市町村別の通勤者の割合を指します。
一般的には、通勤流動が大きい市町村がある市町村では通勤率が高くなります。また母数となる居住人口の大小によっても通勤率は変わります。
都市雇用圏では、中心と郊外の関係性を定義するために通勤率が使用されます。
都市雇用圏の特徴
都市雇用圏の定義にあたってはどのような特徴があるのでしょうか?
前項の目的を満たすために、都市雇用圏では次のような特徴があります。
中心の設定
中心を設定するにあたり、条件として「DID人口が1万人以上」かつ「従業常住比が1以上」かつ「他の市町村への通勤率が10%を超えない」という基準を設けています。
一定規模以上の人口集積があり周辺市町村から雇用を集める市町村であることが中心となりうる条件として設定されています。逆に言うと、人口集積が一定規模に満たない市町村は中心とはなり得ません。
なお東京特別区部および政令指定都市については、区部または市全体で中心要件を満たしていなくても、区単位でみて1つの区でも中心要件を満たしていれば区部または市全体が中心として扱われます。
副中心の設定
上記の中心となる条件のうち「他の市町村への通勤率が10%を超えない」という条件を満たさない場合、つまり他の市町村の郊外とされる場合であっても「従業常住比が1以上でDID人口が中心市町村の3分の1以上」または「従業常住比が1以上で人口10万人以上」の場合は副中心となり得る条件としてして設定されています。
中心市町村を中心とした都市圏の中では中心市町村の郊外(中心市町村への通勤率が10%以上)でありながら、中心市町村に次いで一定規模以上の人口集積があり周辺市町村から雇用を集める市町村が副中心として設定されています。
この副中心の設定により、複数の都市が連担し、核が複数ある多核(複眼)都市圏の定義を可能にしています。
1次郊外の設定
「中心市町村への通勤率が10%を超える」市町村で上記の中心や副中心の条件を満たさないものは1次郊外として設定されます。
2次以下の郊外の設定
他の1次郊外となっている市町村への通勤率が10%以上を超える市町村で上記の中心や副中心の条件を満たさないものは2次郊外として設定されます。同様に3次以下の郊外も設定されます。
2次以下の郊外の設定により、「中心市町村よりも1次郊外となっている市町村の方が通勤率は高いが、1次郊外が中心市町村の郊外であることにより中心市町村の郊外とみなす」ことが可能となり、通勤率の連鎖による多層的な都市圏の定義を可能としています。
その他の郊外の設定ルール
上記の他に、郊外の設定には次のようなルールがあります。
- 2つの市町村がお互いに通勤率10%を超える場合は、通勤率が大きい方を小さい方の郊外とみなします。
- 中心(副中心含む)が複数市町村から構成される場合は、そのすべての市町村に対する通勤率で計算されます。
- 通勤率が10%以上となる中心または郊外市町村が複数ある場合は、最大の通勤率である市町村の郊外とします。
都市圏の規模
通勤率で関連付けられた中心(副中心を含む)と郊外との組み合わせのひとまとまりにした範囲を1つの都市圏として設定しています。
中心市町村の条件に「DID人口が1万人以上」とあるため、すべての都市圏はDID人口1万人以上の市町村を1つ以上含みます。
中心市町村のDIDが5万人以上のものは大都市雇用圏、5万人未満のものは小都市雇用圏として分類されます。
都市雇用圏の定義
具体的な都市雇用圏の定義とはどのようなものでしょうか?
最後に実際の都市雇用圏設定基準の記載を見ていきます。
区分
・大都市雇用圏(Metropolitan Employment Area):中心市町村のDID人口が5万以上
・小都市雇用圏(Micropolitan Employment Area):中心市町村のDID人口が1万以上5万未満都市圏
金本良嗣・徳岡一幸 「日本の都市圏設定基準」 2002年
都市圏
DID人口が1万以上の市町村を含む。
同
中心都市
以下の条件のいずれかを満たす市町村を中心都市とする。複数存在する場合には、それらの集合を中心とする。
同
- DID人口が1万以上の市町村で、他都市の郊外でない。
- 郊外市町村の条件を満たすが、(a)従業常住人口比が1以上で、(b)DID人口が中心市町村の3分の1以上か、あるいは10万以上である。
郊外
中心都市への通勤率が
- 10%以上のものを(1次)郊外市町村とし、
- 郊外市町村への通勤率が10%を超え、しかも通勤率がそれ以上の他の市町村が存在しない場合には、その市町村を2次以下の郊外市町村とする。
ただし、
同
- 相互に通勤率が10%以上である市町村ペアの場合には、通勤率が大きい方を小さい方の郊外とする。
- 中心都市が複数の市町村から構成される場合には、それらの市町村全体への通勤率が10%以上の市町村を郊外とする。
- 通勤率が10%を超える中心都市が2つ以上存在する場合には、通勤率が最大の中心都市の郊外とする。
- 中心都市及び郊外市町村への通勤率がそれぞれ10%を超える場合には、最大の通勤率のものの郊外とする。
まとめ
ここでは、都市雇用圏の概要について見てきました。
距離の近い複数の都市が近接しているところが多い日本の事情を鑑み、従来の都市圏では実態をうまくとらえられないところを補うために都市雇用圏が考案されました。中心と周辺との経済的な関係を通勤率という指標を使って、都市圏を実態に近い区分にしました。具体的には、DID人口と従業常住比という指標で中心を定義し、それらの中心への通勤率で郊外を定義したものとなります。こうして定義された都市雇用圏は都市圏として一般的に採り上げられやすい存在となっています。
都市雇用圏がどのようなものなのか、おわかりいただけたのではないでしょうか。
参考・ソース
参考文献
- 金本良嗣・徳岡一幸 「日本の都市圏設定基準」 2002年
(簡易版: https://www.csis.u-tokyo.ac.jp/UEA/UEADef.pdf)
(詳細版: http://www.csis.u-tokyo.ac.jp/dp/37.pdf)
データソース
- 総務省 国勢調査 「令和2年国勢調査」
(https://www.stat.go.jp/data/kokusei/2020/kekka.html) - 国土交通省 国土数値情報 「行政区域」
(https://nlftp.mlit.go.jp/ksj/index.html) - 国土地理院 地理院タイル 「陰影起伏図」
(https://maps.gsi.go.jp/development/ichiran.html)